素潜りの漁師 舟越直木(彫刻家)
制作者は素潜りの漁師のようなものである。
彼は岩の上に座り、風向きを見、潮の流れ、海水の温度、時間、気温
すべてのことを頭に入れて、魚を捕らえようとし考える。
しかし、それは陸の上での思考であり、魚は海に飛び込まない限り
絶対に捉えることはできない。
陸の思考は海の中で起こりうることとは別のものであり
陸の上での思考が海中での行動のすべてを決定できはしない。
海の気配が前日の漁とまったく同じに見えても
同じところに魚がいるとは限らない。
同じ海が二度とあらわれることはない。
ときには完璧とも思える見通しを立て実行に移し
海に飛び込んでも、なにもとれないこともあるだろう。
私は今までにつくってきた作品の背景に
どのような海の状況があったか、
今では思い出せないものが多くある。
漁師は、昨日の漁よりも今日の漁を考えるであろうし
今日の漁が終われば明日の漁を考えるであろう。
しかし、次の漁に過去のすべての漁から学んだことが
いつも力になってくれるとは限らない。
そうだとしても、あなたが漁師であるなら
また海に戻っていくべきだ。