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ちいさな命 Maria Agnes 新美京子
ミモザのこと
10月のある日、大型の台風に見まわれました。翌朝、「大変よ・・・」と言われて急いで外に出てみると、周辺の道路は川のようになっていて、修院の庭は沼のようになっていました。
屋根のほうに気持ちよく葉を茂らせていたミモザは根元から倒れ、泥のなかに白い根がむき出しになっていました。
「こんなにひどい台風は記憶にないなあ」と、ご近所の方がおっしゃいました。
翌日は台風一過の秋晴れでした。外に出てみると、いつもの植木屋さんが作業してくださったので、庭はある程度整えられていました。
ふと目をやると、意外なことに、ミモザが植わっています。
あれ、お別れじゃなかった、命は続いていた・・・。心のどこかで、もう死んでしまったと思っていたのです。それにしても、まあ、何とちびちゃんになったことでしょう。葉や枝がみな取り払われて、もとから細かった幹もうんと短くされて、紐で固定されて。
「来週、特大の台風がまたくるよ」と、近所の方が教えてくださいました。
一難去ってまた一難。でも、ちびちゃんにしてもらったから、今度は大丈夫かな?
カボチャのこと
この秋にかけて、カボチャを収穫しました。
大きくて実のしまったものはお煮物になります。末成りのものはお味噌汁の具になります。
でも、虫にやられて育たなかったものは、根や茎といっしょに静かに畑に残ります。
もしわたしがカボチャだったら収穫されたいな。
ていねいに料理されて、きれいに盛りつけられて、「よく育っていますね、おいしいですね」と言って食べてもらいたいな。
人様のお役に立ちたい。そのために植えられたのですから。
でも、この頃になって、私の考えが変わりました。
静かに畑に残ったちいさな命の使命、それは、他の命を生みだす土になることなのだ・・・と。