戻 る


神の賜もの    Sr.佐久間光恵


 六月末、畑の隅に一本の苗が芽を出した。
昨年堆肥に捨てられた種が運ばれて芽を出したのであろう。こんな時期に、こんな所に。
二枚葉はうり瓜科の野菜。数日たつと中葉が出て大きくなりだした。スイカらしい。
どうしよう!病気に弱く育てるのが難しいと言う。
「たった一本」。遠目で眺めながら心が定まらない。



すると、
この物にも命がある。生かされている命、天地創造の前から、私の内に存在していた 
と言う声が、心に響いてきた。 

私と同じ命が、お前のなかに生きている。この時、命の重さを実感した。心は決まった!
育てよう、実がつかなくても葉を楽しむだけで良い。堆肥と肥料も入れて、日当たりのよい土に植え換えた。

その後、思いを寄せ、声をかけながら世話をしていると、どんどん大きくなり、何本ものつる蔓をだし、一本の茎とは思えない。
七月半ば、花が咲きだした。雄花ばかり。
まあ〜花を見ることができた。ありがとう。感謝だよ!と喜んでいると、数日後、雌花が三個咲いていた。こりゃ〜すごい。受粉してやると一個だけ生き残った。
「大きくなりなさいよ」と毎日のように声をかけ世話をしていると応えるかのように、ピンポン玉、ゴルフボールと日に日に大きくなっていく。スイカと私の心が通い合う不思議な時、雨の日も、風の日も、太陽の焼けつく日にも、置かれた場で置かれたままに静かに耐え、黙して命を成長させている姿に、いとおしさと神秘を感じる。

浮き出た皮の筋も黒くなり、コツコツたたいてみると響き渡る音、熟した気配に「切るからネ」と声をかけて蔓から切取る。
ずっしりと重い!初物なので、神への感謝とスイカ君ありがとうの気持で祭壇の下に捧げた。
姉妹たちはクスクス笑っている。
被昇天の祝日に全員でいただきました。
夏の思い出、これで終わり。と思いきや、なりばな生花が数個咲いている。蜂も飛んでいる・・・自然のままに・・・自然のままに・・・すると四個が受粉し競って大きくなっていく。

一カ月後、熟した順に切取る。
重い!一番大きいので七キログラム、六キログラム、五キログラム。すごい!と驚くばかり。
会の祝日に一個を全員でいただいた。最も感動したのは、灼熱の暑さにじっと耐え成長していく姿だ。命を十全に生き切る。なんと荘厳で美しいことか。そして、すがすがしい。

その命のなかに、神を讃えている姿が観える。あの時、一本の苗を切ってしまっていたら、このドラマは無かった。
「生かしてくれて、ありがとう」という声が聴こえる。