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修室の窓からの眺め
Sr. 大場幸子


 2012年1月、増築された介護棟の四室のうち一室が私の修室になった。南に向いて いる窓から立って外を眺めると数年前、国体で軟式テニスが白子で行われた。
 その時、天皇皇后両陛下がおい出でになり通られた道路がずっと先にあって、左右 に行き交う車の様子が見える。そこから三本の道路があり二本目は合板工場、三本目 には鰯(いわし)の干物の工場がある。
 これらの道路を繋ぐように排水路に沿って縦に道路がある。そして左手にTホテル の体育館が建っていて、球技や音楽隊の練習の音が聞こえてくる。

 夏、夕方から夜になると前の水田から牛がえるの大合唱が始まる。うるさい程だが 近年はほんのわずかのカエルの声しか聞こえない。水田が少なくなったせいだろうか。 かつて600面あったテニスコートは今もそのままあるのだろうか。
 白子の名産 玉ネギやピーナッツ畑は太陽光のパネルに変わり風情のない町になり つつある。
 修道院の敷地の垣根に五つの門がある。正門、トラックや訪問入浴の車が出入りする門、 その横に信徒養成所を利用する人たちが通る小さい門、非常時にお墓の方に抜 けることが出来る門、五つ目は一番新しい門で、3・11の後に出来た門である。
 この門が出来た理由は、大震災後、若潮団地に住む人々と近くに住む人々の要望に よって、災害が発生した時、真直ぐ指定避難所に行けるよう修道院の敷地内を通らせ て欲しいということで、討議検討の結果、町役場の援助もあって、門を造り排水路に 橋が掛けられた。幸いにこの門は災害のためには一度も使用されていない。


冬瓜とうがんつる
 この門のすぐ側にある大きな 貝塚息吹かいづかいぶきの木に冬瓜が螺旋状に蔓を張っていて、その様はバベルの塔を思わせる。
 その蔓には数個、風にゆれて冬瓜が垂れ下がっている。私はこの木の下に青ジソの 苗を植え、実は塩漬けに、葉は薬用に使う。9月にはシソの実をこそぐ仕事があり、 昼食後、数人でこの作業に当たる。すると院内はシソの匂いでいっぱいになる。これも秋の匂いの風物詩だ。
 トマトジャム造りの時も同じで、 一日中トマトジャムの匂いが院内中に満ちる。


 窓からの眺めから思い出すことがある。
 以前に「ジョハリーの窓」というエクササイズをしたことがある。
四つの窓一つひとつを見ていくのであるが、自分が知らないということが分かって愕然 としたことを思い出す。

 又、12月の毎日曜夕暮れや明 け方の様子を見つめる祈りもしたことがある。
 夕方から目の前の景色が全く見えなくなるまで。そのうちに物の形が見えてくる。
 このとき私は光の中に解けていく感じを味わった。それは貴重な祈りだったと思う。