目次




 青い空に、白鷺しらさぎが飛んで行く。数十年前には、日本のときが優雅に空に舞っていたそうです。その鴇も消えてしまった。
 私達が共に暮らす家である、この地球を忘れていました。
命を生みだす、母なる大地を忘れていました。沈黙の内にひとつ、ひとつの命を抱き、育み成長させてくれている、あなたを… 風にざわめく梢、波うつ無数の草木よ! 虫達は宿を借り、鳥たちは<ねぐらとし、獣は子供を育てている。酸素を供給し、大気を浄化し、大地を潤し、全ての生きものに食べ物を恵み、炎暑を和らげ、いつも側にいるあなたを忘れていました。

 天から落ちる水、地から湧きあがる水、海へ流れ込む水よ! あなたによって万面の海は活性化され、再生され、深遠なる神秘が隠されているのを忘れていました。  あらゆる微生物の働きで、命を返したものたちは、分解され、新たな命の寝床が誕生するのを忘れていました。存在する全てのものは、大きなものも、小さなものも、互いに生かしあい、補い合って調和し、協力して大交響楽を奏でています。その様は、ただただ驚嘆するのみ。 万物を創造し、存在させ、いとおしみ包んでおられるお方がおられる。なのに、人類はこの素晴らしい秩序からはみ出してしまった。どうしてなの!!

呼吸をしなければ、私達は生きられない。コンクリートの道路と建物の中だけでは生きられない。水分でおおわれているこの体は、水なしでは生きられない。プラスティックのゴミの山の中では生きられない。木の実や草を食べ、魚や獣の命を頂かなければ生きられない! カプセルを食べては生きられない私達です。体温以上に上昇する気温の中では生きられない。ああ・・私達は、あなたに無関心でした。感謝する心を失っていました。そして、加害者であり、被害者になってしまいました。私達の家である、この地球が痛み傷ついています。この家に住むあらゆる命が、不安、恐れ、悲しみ、苦しみ、怒り、苛立ち、揺れ動いています。


 どうすれば良いのか?  一人一人に投げかけられている重い問いです。 主よ… おしえて下さい… どうすれば良いのか…
 “祈りなさい、祈りなさい… 真剣に… いつなん時にも祈りなさい。捜しなさい、叩きなさい。”という声なき声がひびいてきます。
 私には、歴史的事実として起こった、二人の人の行いが思い出されます。

 北海道の東、山村、鶴い村での事、昭和30年代、気候の変化、環境の変化で村の空に舞っていた丹頂鶴が姿を消した。一人のお婆さんが、毎日毎日、外に出ては鶴の姿を追っていた。来る日も来る日も。極寒の2月、遠くてヨロヨロ餌を捜している一羽の鶴の姿を見た。消えてしまったと思っていた鶴を見た喜びと感動で、お婆さんは呼びながら毎日トウモロコシを蒔き続けたが、鶴は現れなかった。それから2年後、枯嵐の吹く初冬、2羽の鶴がトウモロコシをついばんでいた。2羽ということは、つがいでしょう。鶴は一生を添いとげると言います。1羽増え、3羽増え、餌を求めて来る鶴が多くなり、お婆さんの家だけのトウモロコシではたりなくなりました。その話を近くの小、中学校の子供達が聞きつけ、協力してトウモロコシを集め、鶴に与えていました。
 このニュースが全国にも報道され、協力金が送られてくるようになり、餌をまかなうことができるようになりました。人々の優しさ、善意、協力によって滅んでしまった!と思われていた鶴を危機から救ったのです。

お婆さんは天に召されましたが、その活動は引きつがれ、今でも続いていますし、丹頂鶴は絶滅種から外れました。


 もうひとつの話、十数年前、NHKのドキュメンタリーで見たひとりの青年の生き方です。

 日高昆布は有名ですが、昆布の裏に愛と忍耐と涙と血がにじむような苦悩が隠されています。
 襟裳えりもは、昆布の産地でした。昭和20年後半〜30年代には昆布が取れなくなり、人々は仕事を求めて町へ出て行き、この青年の家だけが残りました。彼も悩み苦しみながらも残ることを決断し、昆布が取れなくなった原因をくまなく調べて歩き、気付いたことは、子供の頃には、山に沢山の木がはえていた。今では、山の木は切られ、裸になっている。入植して来た人達が、暖房にするため、山の木を切り、裸になったまま放置され荒れはてていた。
 人の言い伝えによれば“山の木が豊かでなければ、海が枯れる”と耳にしていた言葉を思い出し、山に木を植えることを決心し、取りかかった。春と秋には、地をならし、手で一本一本植林をし、夏には下草刈りをし、来る日も来る日も… 冬になればわずかばかりの昆布を拾って生活費とし、… 先が見えないあまりの辛さにやめてしまおうかという誘惑と戦いながら… 

 人々から“海を生かすのに、山に木を植えるのか… と笑われながら。そんな生活の中で、青年に縁談があった。彼は、こんなひどい生活では、相手を幸せにできない… と断りの返事をした。娘さんは、”その青年に会って、話を聞きたい“と言って、はるばる彼に会いに来た。彼のありのままの姿を見、話を聞いて帰って行った。
 その後の娘さんの手紙は、青年のそばにいて、木を植え、育て、海を蘇らせたい、同じ仕事をし、彼の手助けをしたいというのです。

 親は、大反対をしていますが、自分を嫁にもらってほしい”“という内容でした。
 彼女の熱意に負けて、二人は結婚し(式はあげられなかった)二人で木を植える生活が始まった。
 時間の流れの中でいろいろな事があった。木を植えだして、十数年、彼らの姿を見て、木が育っていくのを見て、ボツボツと協力してくれる人が出てきた。

 ある寒い年、強大な流氷が襟裳の海岸に押し寄せた。そして春になって流氷が去った後、海は黒く色が変わっていた。昆布が一面に押し寄せている。
 昔の人が、”流氷が昆布を運んで来る“とのことわざを二人は体験したのです。これまでの苦労が、やっと実を結んだ、木が海を生かすことを経験し、感動と喜びに二人は泣きました。

 深く心の打たれるドキュメンタリーでした。

 肥沃な土地に育った木は、ミネラルやその他の物質を豊かに蓄えていて、水と共に海へ注ぎ込まれて行く。土や木の持つ栄養が海を生かしている。何という神秘… 無駄なものはひとつもないのです。
 二人の人から私が教えられることは、重大なこと、大変なことを変える力は上意から来るのではなく、名も無い庶民の心ある一歩から、地道に、粘り強く、やり続ける意志が、この世を少しずつ変えていく!!この地球に生きる一人一人が真摯に具体的にできることをなし、諦めないでやり続けていくと、かならず何かが変わっていきます。私はそれを信じます。
全ての命が守られ、成長しますように…