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03 一老修道女の祈り 

Sr.関雅枝(フランスの共同体から)


 今の時代、まだ80代に至らないのに老修道女などと云えば生意気と思われるかもしれない。
 私自身気持ちだけはまだまだと感じないわけでもないが、曾孫がいてもおかしくない歳だし、 身体障害の不自由を持っての人生だからそう言っても許していただけるであろう。
 それにここ数年私より若い姉妹や友人を天にお返ししていることも自分の位置を自覚させるのかも知れない。

 徐々に現役を退いて本来の務めに選任できるのはうれしい。
 私たちの日中は午前7時の読書課に始まり賛課、聖書深読、六時課、ミサ、晩課、念祷そして終課とがっちり祈り時間の配分があって、祈りの生活を生きる者に与えられた特権を生きる恵みを頂いている。先輩の姉妹たちは90代の後半に至っても聖務の大部分に与かっていて、それは彼女たちの喜びであると同時に、あとに続く私たちの励みとなっている。

 ところで今回分かち合いたいのはその枠の外に置かれた祈りのことで、存在による祈り、つまりただいるだけの祈りと執り成しの祈りについてである。
 まず、ただいるだけという祈りについてすこし分かち合ってみたい。
「ただいてくれるだけでいいのですよ。あなたの存在は私の喜びなのですから」…愛し合っている1人がその相手に抱くこのような想いや、障害を持つ子供への両親の気持を物語っているこのことばは誰もが理解できると思う。同じ言葉を造り主であり救い主である方がわたしに言っておられるとき、更に「ただそばにいてください。私があなたにいるように、あなたも私にいてください」と言われるとき、私は、そしてあなたはどの様に応じるのだろう。

 ひとはよく眠れぬ夜を苦に思うらしい。眠らないと明日に響くという。私は神経の病気を患っている人のことを言ってはいない。病気の人にはそれなりの理由があるのだから私は彼らの苦しみに深く一致している。

 それはさておきわたしの睡眠の波にはちょっとした穴があって、寝つきはあっという間に来るのだが、ぐっすり眠った後目が覚め、それから3、4時間覚めたひと時を過ごす喜びを与えられているのだ。

 もう随分長くからのこの習慣が私は大好きである。身体は眠っているらしく動かないのだが、精神と心は確かに目覚めている。ある時は宇宙に飛び出したような感じ、5億光年からの光を見ながら、大きい大きい宇宙のなかにいる。またある時は花婿を待っている花嫁(マタイ25章)のよう。あるいは愛する人が起こしてくれるのを待つ雅歌の乙女のよう。

 もちろんいつもそんなにいい気持ちだけではなく、厚い霧の中で息苦しさを味わう時もあるのだが、とにかくわたしという感覚が鮮明ではっきりしている。
 深さにも差があるが、私はすべてを置いてただ偉大な方の中にいるだけ。言葉なく感情も騒がない。じっと何も考えずただ目覚めているだけのそうした時を私はこよなく愛している。

 睡眠時間が削られているのに疲労せずかえって元気をいただくのだ。
 もう少し意識の位置が浅くなってくると「執り成しの祈り」に招かれるように思う。

 言葉をもって主におねだりする場所に至る。
 日本の教会は祈りを口語文にしたようだが、幼い時から言い慣れている上、フランスで一人祈ってきたので、私は相変わらず「公教会祈祷文」の言葉を使っている。
 そのほうが自然に口に上ってくるからでもある。

 朝未だきにわが心は主を憧れて目覚む。イエズス・キリスト祝せられ給え。イエズス、マリア、ヨゼフよ、この日と一生をみ手に委ねたてまつる……こんな調子で延々と、平和を願い、教会の一致、世界、近隣の国、日本の国のため、福音が地の果てに及ぶことを願い、若者たち、神学生、司祭方、司祭職を放棄した方、家族のため、心にある方々や祈りを約束した方、祈りを依頼された方一人一人のお名前をあげる。 さらに病気の方、苦しんでいる方、本会のためにも祈り続ける。

 そして、日によってもう一度うとうとするときもあるが、そのうちに夜が明けるから、その前に体と呼吸の体操をするのだが、私はこれも存在の祈りと思っている。病気の進行を少しでも遅らせ、主を賛美するのに必要な力を養い維持するものだから祈りと言えるのではないだろうか。
 起床の鐘がなって姉妹が私をベッドから引っ張り出し、身支度を整え、朝食を済ませると早一番の聖務時間というわけだ。
 毎日こんな風に過ぎていく。

 共同体での祈りの枠の外にある祈りについて書いてきたので、最後にひとつ付け加えるなら、夕寝る前、今度は教会の伝統に基いて神の母に私の願いを委ね、祈りを約束した方々と私の回心のため祈ることを忘れていないと記したい。
いつまでこのような生活が許されるのか知らない。でも今日は今日の心配で十分と聖書も言っているのだからそれでよい。

 そして修道院便りの文もここで終止符ということにしておこう。

メルシー!



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