7月、暑さの続く昼下がり、藤棚の下を歩いていて、ふと下を 見ると黒い小さなものが動いているのでよく見ると、立派な光沢 のある黒光りの甲をつけた虫が、のっし、のっしと歩いているでは ないか。とっさに思った。これはカブトムシだ。小さな十字架のような角を 立てている。へえ〜、珍しい・・ 兜虫を見るなんて。何でこんな所にいる のだろう。前日に藤棚の枝切りをしていたから、その中にいたのだろうか。
近くにいた姉妹も来て、珍しい兜虫に見とれ、しばらく様子を見ていると、 “突然“パッと背を広げて飛び立ち、4mくらい四方を旋回したではないか。 その背中がオレンジ色だったので、思わず「すごーい!」と歓声をあげた。 しかし、ほどなく小さなつつじの木の根元に落ち、じっとしている。 この間、一瞬の出来事で夢を見ているようだった。あの黒々と光沢のある 甲が広げたその色が、鮮やかなオレンジ色に本当に驚いた。その後、 つつじの根元を見ていると枝にぴったりくっついて動かない。さわるのも躊躇した。
 夕方になって、きゅうりの皮をむき、うすく輪切りにして枝にひっかけ、根本 に少し置いておいた。次の日、見てみると外側の固い所が残り、中の柔らかい ところは食べたようだった。こうして、2、3日・・・その後、全く動かず土に 還ったのだ。
 こんな小さな生き物が身の危険を感じたのか、全力を挙げて飛び立った あのエネルギーに感嘆した。
 調べてみると兜虫=コガネムシ科、背面隆起、全面平滑、光沢があり、 黒褐色、三対の足は強大で歯状突起を有し・・・とある。しかし、 ひるがえって考えるに、これらのこと詮索するには及ばない。 これは神のわざ以外の何ものでもない。 夏の日の感動した出来事だった。

    主よ、御業(わざ)はいかにおびただしいことか。
    あなたはすべてを知恵によって成し遂げられた。

    あなたは、ご自分の息を送って彼らを創造し
    地の面(おもて)を新たにされる    詩編104